
第4教科②|気密と空気のリアル
― 圧力設計を無視すると成立しない ―
1|本章の目的
第4教科①では、住宅性能の向上により薪ストーブが設計対象となることを整理しました。本章ではさらに踏み込み、高気密住宅において薪ストーブがどの圧力条件で安定し、どの条件で破綻するのかを明確にします。経験や感覚ではなく、圧力差(Pa)という数値に基づいて成立条件を検証していきます。
第4教科①では「住宅性能が上がるほど薪ストーブは設計対象になる」という前提を整理しました。
本章ではさらに踏み込みます。
> 高気密住宅において> 薪ストーブはどの圧力条件で成立し、> どの条件で破綻するのか。
感覚ではなく、圧力差(Pa)で整理します。
2|薪ストーブは“圧力差で動く機器”
薪ストーブはファンによる強制排気ではなく、煙突内の温度差で生じる自然ドラフトによって排気する機器です。安定燃焼にはおおよそ12〜20Pa、着火時でも5〜10Paのドラフトが必要とされ、5Pa未満では不安定域に入ります。室内が−10Paの負圧になると、実効ドラフトは理論上大きく減少し、燃焼は著しく不安定になります。
薪ストーブは強制排気装置を持ちません。
煙突内の温度差による自然ドラフトで排気します。
一般的な自然ドラフト目安:
・安定燃焼:12〜20Pa
・着火初期:5〜10Pa
・不安定域:5Pa未満 ※煙突高さ・断熱仕様・外気温で変動
つまり、> 室内が −10Pa の負圧になれば> 実効ドラフトは理論上半減する。
3|高気密住宅で実際に起きていること
C値0.5以下の高気密住宅では漏気がほとんどなく、第3種換気やレンジフード(400〜700㎥/h)、浴室乾燥機の同時運転により室内負圧が5〜15Paに達することがあります。成立条件は「煙突ドラフト圧>室内負圧」です。例えば煙突15Paに対し室内−12Paなら実効3Paとなり不安定域へ。結果、着火困難や逆流、ガラス煤化、CO上昇を招きます。
C値0.5以下の住宅では漏気が極端に少なく、
・第3種換気
・レンジフード(400〜700㎥/h)
・浴室乾燥機
同時運転時に> 室内負圧 5〜15Paが発生することは珍しくありません。
成立条件は単純です。
煙突ドラフト圧 > 室内負圧
例:
・煙突15Pa
・室内負圧12Pa
→ 実効3Pa(不安定域)
結果:
・着火困難
・逆流
・ガラス煤化
・CO上昇
4|「背面に穴を開ければ解決」という誤解
「背面に150mmの穴を開ければ解決」という考えは誤りです。それは給気設計ではなく、気密ラインを破る単なる漏気です。圧力分離や抵抗計算がなく、室内−10Pa時には他室へ空気が流れることもあります。C値悪化や結露、暖房計画の破綻を招き、レンジフード排気下では負圧も解消しません。欧州では DIBt の制度下で許容されない設計です。
ここが最も重要です。
よくある対処:「背面に150mmの穴を開ければ給気できる」
一見合理的に見えます。しかし結論から言えば、 それは給気設計ではありません。
4-1|それは“給気”ではなく“漏気”
背面開口の多くは:
・圧力分離されていない
・ダクト計算がない
・開閉制御がない
・気密ラインを破壊している
つまり、> 建物性能を部分的に壊している状態です。
これは、設計された給気経路ではなく偶発的な漏気経路です。
4-2|圧力は思った方向に流れない
室内 −10Pa の場合、空気は常にストーブへ流れるとは限りません。
例えば:
・キッチン側がさらに強い負圧
・風圧が壁面に作用
・上階が正圧
その場合、空気は最も抵抗の低い経路へ流れる背面開口は
・室内空気を吸い出す経路
・別室空気を引き込む経路 になることもあります。
これは、圧力設計をしていない証拠です。
4-3|気密を崩すことの本質的デメリット
① 住宅性能低下
C値(日本ではUA値内)は
総漏気面積 ÷ 延床面積
150mm開口1箇所でも高性能住宅ではC値を大きく悪化させます。
結果:
・計画換気バランス崩壊
・換気効率低下
・熱損失増大
② 結露リスク増加
気密ラインを破ると:
・冷気侵入
・ 断熱欠損
・ 表面温度低下
寒冷地では> 内部結露 → 構造体劣化に直結します。
③ 暖房計画の破壊
高断熱住宅は「熱が逃げない」前提で設計されています。
しかし背面開口により:
・局所冷気流入
・コールドドラフト
・温度ムラ が発生します。
これは 暖房計画そのものの破綻です。
④ 負圧問題は解決していない
最も重要な点です。
レンジフードが500㎥/h排気すれば、背面開口150mmでは室内負圧は解消されません。
結果:
・室内負圧は維持
・実効ドラフトは減少
つまり、根本原因(圧力差)を解決していない。
4-4|欧州でなぜ許容されないのか
DIBtドイツでは
・気密住宅対応認証
・外気導入前提
・負圧試験 が制度化されました。
理由は明確です。
気密を壊す設計は住宅性能と安全性を同時に損なう。
5|外気導入の本質
外気導入の目的は単なる空気供給ではなく、室内圧力から燃焼空気を分離することにあります。正しい給気設計とは、気密ラインを維持した上でダクト抵抗を計算し、室内負圧の影響を受けない経路を確保することです。つまり重要なのは「穴を開ける」ことではなく、圧力を前提に設計することです。
外気導入の目的は
・空気供給ではない
・圧力分離である
正しい給気設計とは:
・気密ラインを維持
・抵抗計算を行う
・室内負圧の影響を受けない
つまり、「穴を開ける」ことではなく「圧力を設計する」ことです。
6|事故は“燃焼不良”から始まる
逆流事故は突然起きません。
前兆:
・着火困難
・ガラス曇り
・煙漏れ
・強燃焼依存
これは圧力設計不成立のサインです。
7|結論(設備設計レベル)
薪ストーブは
・熱源機器である前に
・圧力依存型燃焼設備 である。
成立条件は:
住宅気密性能 × 換気方式 × 同時負圧 < 煙突実効ドラフト
給気は開口ではなく、設備計画の一部でなければならない。
最終メッセージ
背面に穴を開けることは:
・給気設計ではない
・気密性能を壊す
・ 暖房計画を壊す
・負圧問題を解決しない
高性能住宅において気密は失ってはいけない資産です。
薪ストーブを成立させるために住宅性能を下げるのは本末転倒です。
本章の内容は、YouTube「薪ストーブ教育TV」にて図や実演を交えながら、分かりやすく解説しています。
数字や用語が少し難しく感じた方も、動画をご覧いただくことで、「なぜそうなるのか」を直感的に理解していただけます。
▶ 下記QRコードより、第4教科「燃焼の基礎|カロリーの実際」解説動画をご覧ください。







